愛しい人に会うため、己の羽を摘み取る日々は続く……













あれほど豊かで美しかったアレンの翼の羽毛は
いつしか見る影の無いほどにみすぼらしくなっていた。
それでもただユウに会うためだけに、
彼は懸命に自分の羽を白い薔薇の花に変え続けていた。


ある日のこと、あきらかに貧しくなったアレンの翼を見つめながら、
黒髪の天使がぽつり小さく呟いた。



「なぁ……お前、いつまでこんなこと続けるんだ?」
「……えっ……? 何のことですか?」
「自分で自分を痛めつけて、そんなに幸せか?」



ユウに会えるだけで幸せいっぱいといった様相のアレンは
彼が何をいっているのか解らないと言った表情で見つめ返した。



「……はぁ……だから、
 いつまでこんな猿芝居を続ければ気が済むんだって聞いてるんだ。
 俺がお前の嘘に気付かないとでも思ってるのか?」
「さる芝居……もしかしてして……はじめから気付いてたんですか?」



何処からどう見ても、あの花は己の羽を紡いで作ったものだろう。
見事なまでに美しかったあの翼が、今はボロボロに変わり果てている事を
アレン自身は本当に気付いていないとでも言うのだろうか?
ユウは怪訝そうに眉を細めた。


よくこんな酷い翼で、遠いこの場所まで通い続けていたものだと
感嘆せずにはいられない。
誰からも美しいと賞賛される姿をみすぼらしく変えてまで
自分に会いにくる価値など何処にもありはしない。
彼は素直にそう思っていたのだ。


いつか己浅はかさに気付き、
こんな道化染みた事はやめるだろう……
そう安易に考えていたのに、
目の前の天使は一向にこの愚行をやめようとしなかった。


そればかりか、何も言わないユウに気を良くしたのか
アレンは毎日嬉しそうにこの場所にやってくる。
豊かな羽を湛えた愛らしい天使の姿が
みるみるうちに醜く変化していくのは、さすがの彼にも忍びなかった。


ユウは目の前のアレンの姿を見つめながら、
参ったとばかりに大きな溜息をついた。



「お前、正真正銘のバカだろう?
 第一、毎日下っ端の天使ふぜいに花を贈るほど、
 神様も暇じゃないぜ? ふつうは……
 そんな見え透いた嘘ぐらい、とうの昔からわかってたに決まってるだろう」
「けど……僕っ……!」



みるからにユウの顔が不機嫌に歪んでいる。
せっかく大好きな人に会える口実が出来たと思っていたのに、
これでまた邪魔者扱いされてしまうのか。
二度と来るなと怒鳴られて、
結局はこの城への出入りを禁止されてしまうのだろうか……?
そう考えただけで、アレンは恐ろしさに涙がこみ上げてきた。


涙目で自分を見つめるアレンに、ユウは困リ果てたように言葉を続ける。



「俺が……用がなけりゃ来るなって言ったからか?」
「…………」
「そこまでして俺に会いに来る必要が何処にあるんだ?
 ここに来たって、別に何をするわけでもねぇし、暇なだけだろ」
「そんなことありません!
 僕は毎日ここに来てキミに会えるだけでいいんです!
 ただこうして……傍にいられるだけで……
 それだけでいいんです……!」



アレンはすがりつく様な眼差しで目の前の天使を見つめていた。
その懸命な素振りから察するに、
自分がここで拒んだとしても、この白い天使は別の手を駆使して
この場にやってくるに違いない。
ユウは直感でそう思った。


今でさえ自分の羽をこんなにボロボロにしてしまっているのだから、
この次はどんなことをしでかすのか、考えるだけでも恐ろしいものがある。




「……はぁ……しょうがねぇな……
 ここに来たいっていうなら、もう来るなとは言わねぇよ。
 そのかわり、もう何も手土産はいらない。
 自分の羽をむしって花に変えるなんて真似、もうするんじゃねぇ……」
「ほ……ほんとにっ?!」
「……ああ……」



ユウは目の前にいる小さな天使の頬に優しく触れた。
長いこと同じ場所で同じ時間を共有していたと言うのに、
アレンに直接触れたいと思ったのはこれが初めてだった。
ふわり柔らかい感触がユウの掌に触れると、
何ともいえない安堵感が彼を覆った。


なぜ自分は頑ななまでにこの小さな天使の来訪を拒んでいたのか?
ユウは己のふがいなさを心の中で恥じていた。
もっと早く声をかけてやれば、アレンをここまで貶めなくても済んでいたのに。



「お前って、本当に変わったヤツだな……
 俺の傍にいても怖いとは思わないのか?」
「怖いだなんてっ! 僕はキミの傍に居たいんです……
 キミの傍に居られるなら、僕はきっとどんなことでもします!」



ユウに向けられる真っ直ぐな瞳。


ああ……そうだ……自分はこの瞳を恐れていたんだ。
この瞳に魅入られてしまう事を、きっと心のどこかで予感していて……
だから安易に近寄る事を避けていたんだ……


ユウは咄嗟に今までの自分の不安定な感情の意味を理解した。
 

一方アレンの方は、ここに来ることを許された嬉しさと、
初めてユウに触れられた恥ずかしさとで、その顔を真っ赤に染めていた。
一度に願いが叶ったような気分で、呆けたように口を半開きにしてしまう。



「……くっ……お前、へんな顔してるぞ?」
「えっ? そ、そうですか?」

「ああ…ホント…変な顔だ……」



誰もが敬遠する天空の果ての城へ通いつめ、
挙句の果てに自分の傍に居るためならどんなことでもすると言い切ってしまう
目の前の天使。
他者と関わりを持つ事を避けていた彼のささくれ立った心に、
アレンの純粋な気持ちはゆっくりと染みこんでいった。



「お前は……不思議な奴だな」



ユウはそう呟くと、目の前の天使をそっとその腕に抱きしめた。
ふわりと艶やかな黒髪がアレンの頬を撫で、
何ともいえないいい香りが鼻をくすぐる。


アレンは幸せのあまりどうにかなってしまいそうだと思った。
思わず瞳を閉じて愛しい人の胸に頭を預ける。
この幸せが続くのなら、自分の羽など全て抜け落ちてしまっても
構わないとすら思える。



「ユウ……僕は……キミのことが大好きなんです……
 好きで……好きでたまらない……
 こんな気持ち初めてで、どうしていいかわからないんですよ……
 ……ほんとうに……」
「ああ……俺にも、お前の気持ちが伝染したみたいだ……」
「……え……?」
 


次の瞬間、ユウはアレンの顎を軽く摘んで上を向かせると、
その愛らしい唇に己の唇をそっと重ねた。
友情や親愛の情ではなく、初めて相手を愛しいと思える。
そんな気持ちを込めたキス……








爽やかな風が、白い花びらを巻き上げて二人をとり巻く。
薔薇の優しい香りが目に染みて、
いつしかアレンの瞳からは
大粒の涙が幾重にも零れ落ちていた……















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≪あとがき≫

更新滞っててスミマセンでした;
ようやく想いが通じ合った二人vv
まぁ、まだまだアレンくんの天秤の方が大きく傾いているようですが、
それでも大進歩ですかねぇ〜♪
この後は……モチロン……!!○○○でしょっ!
んん〜〜15Rにするか18Rにするか、はたまた放置にするか、
今悩んでいます;
そして、物語はまだまだ続きます(〃⌒ー⌒〃)ゞ
これからもまだまだお付き合い下さいねっっd(⌒o⌒)b





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〜天使たちの紡ぐ夢〜   Act.5